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没後10年「武満徹の世界」

行ってきました。何とか。

京都市交響楽団 第485回定期演奏会

プログラムはこの5曲。

  • 弦楽のためのレクイエム(1957)
  • ノヴェンバー・ステップス(1967)
  • 夢時(1981)
  • 夢窓(1985)
  • 系図」〜若い人たちのための音楽詩〜(1992)

曲によって楽器編成が大きく違うので、舞台転換が大変そう。けど、その間に岩城宏之さんが曲の説明などをしてくれて、面白かった。何でも岩城さんは、今から2年前にこの演奏会の企画を京響に持ち込んだものの、実現するとは思っていなかったらしい。僕も、これほど思い切った演奏会を定期演奏会でやるのは英断だと思う。武満徹の音楽に縁のない定期会員が、この演奏会を聴くことで、何らかの変化を促されるかも知れないもの。ベートーヴェンしか聴かないようなお爺ちゃんとかに、今日の感想を訊いてみたいなあ。

岩城さんのトークでは、パンフレットの内容への怒りが、特に面白かった。岩城さんの怒りは、「演奏者紹介なんかに無駄に6ページも使っている」「武満徹の命日が1996年2月20日ということを記載していない」「楽曲解説の内容が不十分」の3点くらいで、きちんと企画して丁寧にパンフレットを作れば、没後10年を記念して京都市交響楽団が画期的な企画をやったという歴史がずっと後にまで残るのに勿体無い、と残念がっていた。本当だ、明後日が命日なのに! 楽曲解説も、楽器編成・初演年と演奏者・委嘱者くらいは載せれば良かったのにな。データとしても読めるような内容にさ。変に散文的で残念。書いているのは楢崎洋子さん。楢崎さんにしてみれば自身の著作「武満徹 (作曲家・人と作品シリーズ)」を読んでくれ、ということなのだろうし、このプログラムでしか書けないことを書こうと苦心されたのだと思うが・・・。指揮者の考えと、楽団の思惑と、執筆者の思いが、すれ違った感じです。楽曲データ集めるだけなら楽団でも出来たのに、勿体無い。

演奏は、とても満足。どれも実演で聴くのは初めてだから。

弦楽のためのレクイエム(1957)

演奏を「見る」ことが出来たのが嬉しい。スコアは手元にあるのだが、どんなアクションでどんな音色が出るのかは、やはり実演でなければ分からない。武満作品の中では比較的プログラムに乗ることの多い曲だと思うので、これからも機会があれば、また聴いてみたい。京響の弦って、これほど表情的だったろうか? いい意味で期待を裏切られた思い。コントラバスの存在感、ヴィオラの歌、印象に残る瞬間に多く出会えたように思う。コンサートマスターも仕事をしていますね。昔の京響コンサートマスターはこんなではなかった。感動しました。

ノヴェンバー・ステップス(1967)

尺八の三橋貴風の集中力が凄い。「レクイエム」でも何度も聞かれた客席の咳を、完全に止めるほどの圧迫感。音と音の間の詰めた空気を、味わえたと思う。これ比べると申し訳ないが、首藤久美子の琵琶のパートではホッとしてしまう。客席の咳も増えていたw 金管が意外に聴かせるなと思った。ハープの強いアクション、これは大変そうだ。打楽器は後ろから聴いたせいか、うるさい。京響、若い演奏ですね。ここでも感動。

夢時(1981)

  • 作曲:1981年
  • 初演:1982年6月27日、札幌交響楽団岩城宏之の指揮で初演
  • 委嘱:オランダ国立ダンス・シアター(ユーロヴィジョン企画による)

実演で聴くと、とてもダイナミック。水らしい音が聞こえた。パンフレットの解説を読むと、やはり水をキーワードとしている。岩城さんのトークによれば、この作品は「ゆめとき」と片言で読むような読み方が良いらしい。曲が生まれた背景には、オーストラリアのアボリジニーの語った言葉や、歌や舞踊があるとのこと。アボリジニーの片言「Dreamtime」という存在しない英語、これを訳すのなら、「夢の時」とか説明的に書かずに、「ゆめとき」と一般的に耳慣れないフリガナとするほうが的確ということか。

夢窓(1985)

これを実演で聴けることが幸運だ。アンサンブル・ノマドの佐藤紀雄さんが客演とは知らず、これも嬉しい。「夢時」と比べると音の奥行きがグッと拡がった感じ。編成が大きいほど、音の表情の幅が増えていくのが武満なのかも知れない。これは凄い。無駄に大きな編成というわけではないのだな。幸せな時間。

系図」〜若い人たちのための音楽詩〜(1992)

演奏の前に岩城さんのトーク。原曲が生まれた経緯について説明され、放送初演を自身で行なったことを紹介された。この曲は変則3管編成なのだが、今日は岩城さんが編曲した簡素な編成。原曲の編成だと、なかなか実演にかけにくいらしく、演奏される機会が限られてしまう。そこで、オーケストラ・アンサンブル金沢の編成に合わせて岩城さんが編曲。録音も出ている(武満徹:系図(ファミリー・トゥリー))。「演奏されやすいように」だけで編曲してしまってもいいものか、と思っていたが、今日のトークでは「詩のシンプルさに寄り添った内容のほうがいいのではないか」と存命時の作曲者に岩城さんは意見したらしい。なるほど。登場する吉行和子さん。服装が若いw だけど手元のCDよりも、ずっと老けた声になっていた。けど、そちらのほうがより自然な雰囲気になったと思う。詩の最後で、「とおく」へ行く主体は、精神は少女でも、声が少女である必要はない。「おかあさん」「おばあちゃん」も含めた女性の命として、僕には迫ってきた。2回目の「むかしむかし」で、涙が溢れそうになる。なぜだろう。ホルンのソロは、心配していたけど、とても美しかった。アコーディオンが目立つ箇所で、心にズンズンと線を引かれるような気持ちになる。そこから覗き見れそうなもの、何か暖かいものの存在を感じる。美しい。立ち上がって拍手をしたかったけど、恥ずかしさが勝ってしまった。

今日の演奏会は、NHK-FMでも放送されるとのこと。

  • 番組名:「FMシンフォニーコンサート」
  • 放送時間:平成18年2月26日(日) 14:00〜15:00
  • 【再放送:2月27日(月) 10:00〜11:00】

ところで、最悪だったことを一つ。

「ノヴェンバー・ステップス」で尺八が吹き出すところで、客席のどこかで携帯電話が鳴った。誰だ不届きな奴はと見ると、ステージの上手側の2階席に座る坊主が犯人。坊主と言っても子供のほうではなく、僧侶のほう。有り得ない! そして情けない! 当たり前のこと書くが、なぜ電源を切っておかない! いや根本的に、僧侶に携帯電話は要らないだろ! 悟りからは程遠い。