エリック・カンゼルとの出会い
American Pops Pioneer Erich Kunzel Dead at 74 | Playbill
エリック・カンゼルが亡くなったらしい。悲しいと言うか、どよーんとしんどい気持ちになってしまった。
カンゼル/シンシナティ・ポップス、それは僕の青春と言っていい。彼らとの出会いの最初はこれだ。
ディズニー・ファンタジー・ワールドposted with amazlet at 09.09.03
親が生協の通販か何かで買ってきたCDだった。当時、ディズニー関連の音楽で知っている曲は「New Sounds in Brass」の「ディズニー・メドレー」に含まれている曲程度。全く未知の曲ばかりだった。カンゼルという名前はもちろん初めてだし、シンシナティという都市にも何のシンパシーも持ち合わせていない。始めから僕は、カンゼル/シンシナティ・ポップスのディズニー演奏を受け入れまいという壁を作っていたと思う。「ディズニーなんて、女の聴くもんじゃねぇか!」式な勝手な意地があったのだ。そしてこの録音にはコーラスがふんだんに使われている。田舎の男子にとっては、コーラスほど近寄り難いものはないのだ。とまあ、最初から偏った聴き方をしていた。偏っていることは当時も自覚していた。
その自分の頑なな態度の隙間を狙いすまして、彼らの演奏はだんだんと攻め込んできた。「It's A Small World」を聴いていて楽しいなんて、口が裂けても言えない。カーメン・ドラゴンのアレンジの「When You Wish Upon A Star」を、今なら真っ直ぐに好きと言えるが、当時は自分で作った壁を自分から崩すことは出来なかった。一人、誰にも見つからないように、ディズニーを聴く。「Disney Fantasy Medley」の最後のオルガンに何度も圧倒された。タンボが飛ぶシーンにはしゃぐコーラスに心を躍らせた。僕をそうさせたのは、カンゼル/シンシナティ・ポップスの素敵過ぎる演奏に他ならない。結局、僕が「カンゼル/シンシナティ・ポップスが好き」「彼らのディズニー演奏が好き」と素直に言えるようになったのは、大学生になって田舎から出てきてからのことだ。
僕のオーケストラの楽しみ方は、彼らの録音からかなり影響を受けていると思う。凝ったアレンジ。くっきりした響き。楽しませようという心意気。本家よりポップス・オーケストラとしての知名度のほうが高い、捩れた恰好良さ。その後も彼らの録音を何枚か買ったが、裏切られることは殆どなかった。西部劇映画の音楽集、アンドリュー・ロイド=ウェバーのメドレー、ラテン・ミュージック集、グランド・キャニオン・・・。どれもこれも大切で、今でも取り出すことの多い録音だ。
カンゼルが亡くなった。色々なものが変わり、終焉を迎える。振り返ってばかりもいられないけど、カンゼル/シンシナティ・ポップスと出会ってなかったら、今の僕の立ち位置も随分と違ったものになっていたかもしれない。もしも彼らの録音が僕を今の道に引き寄せたのだとしたら、それは感謝になるのか恨みになるのか・・・、色々考えさせられる。今はただカンゼルにはお疲れ様と言いたい。そして屈折した聴き方をしていた僕をほぐしてくれたカンゼルとシンシナティ・ポップスにも御礼を言わねば。ありがとう。