妄想と確認

10年前の今頃のことを思い出している。そして、もしあの頃から指揮者を目指していたら芽が出たかもなと妄想している。いや、あれだけ限定された世界でさえ、「彼には敵わない」と思わせられるほどの指揮をする人に出会ったりもしていたのだから有り得ない話なのだけども、まあ妄想だから。あの頃から続けていることと言えば、作曲・編曲を細々とやることと、CDを買うこと、それに色々な楽器を演奏することと、数少ない本番を指揮することくらい。何の蓄積もない。指揮に限れば10回の本番にすら届いていない。

指揮者になるとした場合の、収入のない不安定な状態を10年もやり続ける金銭的な後ろだては僕にはなかったから、それを言い訳にして安定した仕事・生活を取って僕は音楽を一度捨てた。趣味的な音楽世界で生きていくことを決めた僕だったのだが、週末の趣味的な音楽世界から平日の仕事世界へ戻る時の絶望的なことと言ったら、音楽を捨てる前の僕には思いもよらなかった。僕が生きる姿勢や音楽を思う心の深さを毎回問われる、それはそれは厳しい時間だったのだ。僕はそれに耐えられるほどには音楽を捨てきれてはいなくて、結局ゴチャゴチャ理由をつけて音の世界に飛び込み直した。

どうしてこんな妄想をしているのだろうと思えば、今月は9月じゃないか。