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指揮者・岩城宏之さんが亡くなられました

指揮者の岩城宏之さんが亡くなられました。73歳とのことです。

Yahoo!ニュース - 共同通信 - 岩城宏之さんが死去 世界的な指揮者

この4月にNHK BS2で放送されていた「生涯指揮者 岩城宏之 ベートーヴェンとともにゆかん」という番組で、今後の音楽に対する意欲を、喜びに満ちた表情で熱く語っておられたのを見たばかりなので、今回のことは本当に信じがたい。つらい。その番組では94歳の日野原重明さんが「まだまだ私とは20歳違いますから、まだまだ頑張れると思いますよ」とコメントを寄せていた。僕も、まだまだ頑張っていただけると思っていたし、生きてその姿を僕らに見せて、その音楽を聴かせて欲しかった。今となっては、ないものねだりなのだけど。だけど。

上記の番組で岩城さんが話したこと。

これまではどちらかと言えば、本当の僕の活動は現代音楽でね、特に新作なんかをやりまくって。特に新作でなくても、なによりも、ストラヴィンスキーバルトークとか、ショスタコーヴィチとかメシアンとかが好きで。でも去年(振るマラソン*1を)やってから、自分でやってる最中に変わって、ストラヴィンスキーバルトークメシアンがあんなに好きだったのに、そのくらいの作曲家でやってる(演奏)途中で命を落とすのはやだなって思ってね。

その点、ベートーヴェンとなるとね、地球上の人類の一人として、このベートーヴェンで命を失っても仕方が無いかと。悪いけど、ストラヴィンスキーバルトークに命を捧げるのはやめちゃってね、この現代モノ振りが去年(振るマラソンを)やってベートーヴェンにのめり込んじゃって。

やっぱりベートーヴェンというのはすごいですね。

岩城さんは、ご自身の活動の中で同時代の作曲家たちと関わり、使命感を持って彼らの作品やその他新作を演奏し続けてきた*2。それに多くの作曲家が、自作品を岩城さんに振ってもらいたいという気持ちがあっただろうし、そのことで新作を振る機会が若い指揮者にあまり与えられてこなかったこともあるかも知れない。

けど、この番組でのインタビューの話の通り、自分の命を捧げてもよい対象としてベートーヴェンを挙げられていた。今後はそういった好きな作品を楽しみながら演奏され、新作の演奏や20世紀の重要な音楽を演奏する場が若い指揮者に与えられ、そしてそれを厳しい目で見守る岩城さんの存在があるという状態を、数年続けられれば良かったのにな、と思う。武満や黛が逝った後、使命感だけではない音楽活動をもっと続けられる時間を、岩城さんに与えてあげたかった。この番組では「振るマラソンを10年続ける」とおっしゃっていた。命の続く限りやりたい、とも。残念でならない。

岩城さんのように、現代の音楽に愛情と関心を持ち続ける指揮者を生み出すことが、今の日本のクラシック音楽界の急務ではないだろうか。演奏現場の側の人間として、作曲家に意見をしたり対話をしたりして、音楽創造の過程に貢献できる指揮者を。作曲コンクールの本選で指揮をするだけでなく、自らの内側からの衝動として現代の音楽に関わっていく指揮者を。現時点で岩城さんが築いてきた大きな山を、そのまま受け止め、引き継ぐことが出来る指揮者は居るだろうか。

名残惜しいですが、この世での重要で素晴らしい音楽活動に感謝します。さようなら。

昔にブックマークした岩城さんのインタビュー。

Tokyo Bunka Kaikan

2月に京都市交響楽団に来られた際のエントリも貼っておく。

*1:2004年の大晦日に行なわれたベートーヴェン交響曲全曲演奏のコンサート。

*2:新作初演は2,000曲に上るという。矢代秋雄「チェロ協奏曲」の初演も氏の手による。