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著作権保護期間の延長を行わないよう求める請願署名

青空文庫で以下の請願を進める趣旨のページが出来ていた。

著作権保護期間の延長を行わないよう求める請願署名

青空文庫で思い出すのは吉行エイスケのことだ。NHK連続テレビ小説あぐり」が好きで、と言うか田中美里さんが好きでドラマを見続けていた。あのドラマは週間読み切りのような構成になっていて、今思い出せば捨てにかかってる週もあった気がするが、それはどうでもいい。ドラマの主人公あぐりの最初の夫である望月エイスケは、実在の作家である吉行エイスケをモデルに描かれている。野村萬斎さんの個性的な演技のインパクトが凄かったせいなのだろう、望月エイスケの生き方に僕は憧れてしまった。ドラマの中では望月エイスケが小説を執筆するシーンが何度も登場する。そして僕にとって一番印象的なのが、望月エイスケの死後に発見された小説の中にある一節「深夜 地球が灰皿になる」だ。この一見理解不能な一節に、感動の表情を見せるドラマの中の田中美里さんが印象的とも言うがw そして僕はこの一節を求めて吉行エイスケの作品を探すことになる。

そして出会ったのが青空文庫だったのだ。結局、この一節が含まれる小説を見つけることは出来なかったのだが、吉行エイスケの他の小説を読む契機となった。正直に言って、それほど吉行エイスケの小説が僕の人生を揺さぶるほどの感動を与えてくれたわけではなかった。けれどもドラマの中で活き活きと描かれていた望月エイスケのように、実際の人生を生きた吉行エイスケの残したものが、幾人もの手を経て僕に到着したという事実に感動を覚えたのは覚えている。

この吉行エイスケが亡くなったのが1940年。仮に著作権保護期間が著作者の死後70年であった場合、この吉行エイスケの文章への僕のダイレクトなアクセスは実現できていなかったことになる。ドラマの中で彼の小説の一節を登場させるのにも雑多な手続きが必要であったろうし、僕も彼の小説に辿りつくことは出来なかったかも知れない。こういうことが各所で起こるのだ。「もし」の話をしても意味のないことだけど、これまで出会えてきたものに、もし出会えていなかったとしたらと考えると、少し恐怖に近い感慨を覚える。今ある僕を形作ったものは、これまでに出会ってきた全てなのだから。

そして更に考えてみるのだが、吉行エイスケの妻である吉行あぐりさん。ドラマで描かれたことで多くの人がご存知の通り、彼女は美容院黎明の時代から修行を重ね、今も手に職を持ち続けたままご存命のはずである。そして吉行エイスケの長男である吉行淳之介、長女の吉行和子さん、次女の吉行理恵、それぞれがその道の第一線で結果を出した三人だ。失礼ながら、吉行エイスケ著作権保護期間の間に、食べていけるほどの著作権使用料が彼らに還元されることはなかったと思われる。吉行エイスケの著作があまり知られず、売れなかったことは残念至極だが、吉行淳之介を始めとする吉行エイスケの子供達のそれぞれの人生に対峙する姿勢を見ると、著作権使用料を享受することを期待して生きていた風には見受けられないのだ。彼らの生き方そのものが吉行エイスケから受け継いだ財産のようにも思えるし、僕らはまたそれを受け取ることが出来ている。もし、吉行エイスケの小説が出版以来増刷を重ね、潤沢な収入があったとしたらどうだろう。それでも彼らはそれぞれの道で結果を出したと信じたいが、それぞれが到達し得た高みには至らなかったのではないだろうか。高潔なハングリーとでも言いたくなる吉行淳之介の作風は、生まれていなかったのではないだろうか。

はてなブックマークコメントにあった言葉が僕の中に響いている。

残すべきは「著作権」ではなくて財産だろうが。

著作者が生きている間に、著作物を売ったり知らしめたりすることで得た財産が残されるのが一番いいとは思う。そして財産が残せなくとも、著作者の死後に再評価が進んで、著作権使用料が遺族に還元される仕組みがあるのは決して悪いことではないし必要なことだ。著作者を身近な立場からサポートし激励し続けてきた遺族の労を、著作物を享受する皆で報いるべきだと思う。だけど、現状で著作権保護期間は50年あるわけだ。50年という時間は、遺族の皆さんが別の身の立て方を考えるには十分な時間だと思うがどうか。

そして、今回著作権保護期間を70年にしようという動きがある。この根拠は結局、アメリカのミッキー・マウスの事情なんですよね。僕はミッキー・マウスに恨みはないし、どちらかと言えば好きだが、あの能天気なネズミ一匹のせいで多くの著作物に影響が波及するのは我慢ならない。

本当に大切に守りたいものは何なのかを、時間はあまりないが考えていきたい。