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H.タウブマン(渡邉曉雄訳)「トスカニーニ―生涯と芸術」

トスカニーニ―生涯と芸術 (1966年) (Music library)
H.タウブマン
東京創元新社
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この評伝を古書店で買った理由は翻訳が渡邉曉雄だったからだ。指揮者として多忙だったはずの渡邉曉雄のどこに翻訳をやっている時間的余裕があったのかという疑問もあった。で、調べてみると1956年12月に最初の翻訳版が出ているようだ。続けて渡邉氏の経歴を見ると、1950年からアメリカのジュリアード音楽院指揮科に留学とあり、その留学中に原書がアメリカで出版され手に取る機会があり、是非日本に紹介したいと思ったということだ。渡邉氏はトスカニーニ指揮の実演にも接しているようで、その感動的体験も本書の翻訳に向かわせた動機の一つであるらしい。

読み続けているうちに気付くのが、トスカニーニの活動範囲の広さだ。イタリアでチェロ奏者としてキャリアをスタートさせ、チェロ奏者兼副コーラス・マスターとして参加した南米公演での指揮者としてのデビュー、ミラノ・スカラ座音楽監督としての改革の断行に演奏旅行や、メトロポリタン歌劇場ニューヨーク・フィルでの仕事。そしてバイロイト音楽祭ザルツブルク音楽祭への登場。引退後に引っ張り出されたNBC交響楽団とは全米演奏旅行を行なったりもしている。それら長期的な関係を持ったオーケストラを離れている時期には、客演指揮者として各地のオーケストラを指揮していたというのだから、壮絶な仕事量だ。考えてみれば、世界を飛び回り各オーケストラを指揮する現代の指揮者のスタイルにとても近い。トスカニーニが今の「指揮者」という仕事を作ったと言ってもいいかも知れない。

読んでいて感動を覚えたのが、NBC交響楽団との逸話の数々だ。NBC交響楽団の団員の証言の幾つかを列挙してみる。

  • トスカニーニはわれわれに、倒れるまで弾き抜こうという気を起させる」
  • トスカニーニの指揮であれば、ラ・メールを二十回練習し、さらに二十一回めをひくときでも、新しいものを発見するような気がする」
  • 「マエストロのためなら生命もおしくはない」

これだけではなく、トスカニーニを囲む楽員達の様子や、それに応えるトスカニーニの微笑ましい振る舞いなどもあり、全く飽きることなく読み進めている。そういった指揮者と楽団員の関係について描写されているところもあれば、トスカニーニが音楽作品にどう相対していたかに言及している箇所もある。トスカニーニの言葉として引かれたものを幾つか紹介してみる。

トスカニーニ・ファンになりました。今からでも間に合いますか。