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村上春樹「海辺のカフカ」

海辺のカフカ (下) (新潮文庫)
村上 春樹
新潮社
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単行本も持っていて、今回の再読はそれを読んでからの約6年ぶりになるが、この作品に対して持っていたイメージが少し変化していた。端的に言えば「爽やかな作品」と感じていたのだが、それは作りがシンプルであることから来る短絡的な受け取りの結果、と自己分析。実際は、深刻で未解決なこと山積で、なのに前向きな話だな、と。下巻の後半は6年前に読んだ記憶も薄れていて、新鮮に読めた。

村上春樹が、親子とか兄弟・姉妹とかの血縁関係を持つ人物たちを描いた小説は、あまりないのではないかと思った。マルタとクレタとか、「1973年のピンボール」の双子を思い出す。そんな血縁関係を持つ者たちは何かを象徴するかのように独特な立場で用いられることはあっても、物語の中心を為していくことはなかったように思う。でも「海辺のカフカ」は違う。真正面から親子や兄弟が描かれていき、彼らの行動が物語を動かしたり止めたりしていく。それと同時進行で、血の繋がりを持たない人同士の関係もコツコツと描き続けられる。カフカ少年と大島さんの理解し合う様。ナカタさんを手伝う星野くんの変化。親子のように血が繋がっていても脆弱な気持ちや不安な人間関係を描くと同時に、その場限りの出会いだったかも知れない他者同志の親密をかなりの紙面を割いて描いている。

この本を読んで思ったことの説明はある程度出来るのだけど、作品自体を「捉えた」「理解した」という感慨は全くない。自分の中できちんと受け止めきれず、難しい。簡単ではないテーマだと思う。にも関わらず語り口は平易なので、読む人によっては侮ってしまう作品なのかもと思った。掴みきれたようでもあり、見当違いな感想を持ってしまっているような気持ちにもなり、不安が募る。また数年おいて、読み直したい。

星野くんが喫茶店で聴いた「大公トリオ」を、僕も聴いてみたくなった。聴いたことないと思う。駄目だなあ。本の中でも出てきたスーク・トリオのものを買ってみようかな。