長嶋有「猛スピードで母は」
収録されている「サイドカーに犬」「猛スピードで母は」を読み終える。長嶋有の小説は、ある2人の関係を強固に描いておいて、もう1人を唐突に登場させることで崩れたバランスを、もう一度整えたり、崩したものをもっと細かく砕いたりする作業の繰り返しのような感じがする。それと、登場人物が抱える背景の濃さに驚嘆している。登場人物が過ごしてきた時間や、人格を形成してきた要素。それらは描かれはしないけど、自然に想像させられるヒントのようなものが各所にある。「猛スピードで母は (文春文庫)」を芥川賞に選んだのは、なかなか勇気ある決断だと思う。同賞を信じられるようになった。その時の選評を読んでみたい。