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クラシック音楽を何から聴くか

以前、「http://homepage3.nifty.com/jy/classes2005/100.htm」に反応して、「音大生なら聴いておきたい100曲(作曲年順) - think two things」を書いたが、またクラシック初心者に向けた「100曲」作りが話題になっている。下記のダイアリーとか。

はてなブックマーク - 虚構組曲 - 初心者のためのクラシック音楽100選

これをきっかけに色々書きながら考えよう。

この手の記事にこんなにブックマークが集まるのは、クラシック音楽への関心度の高さと見ていいのだろうか。ある年齢層より下の世代は、音楽の鑑賞の時間のおかげでクラシック音楽に接していない人は少ないと思うので、ここ最近のブームを水分にして一人一人に埋まった種が反応しているのかも知れない。「クラシック」という言葉には、高級な雰囲気が少なからずある。例えば「クラシック・カー」みたいに格式の高いとされるものにつけられるこの「クラシック」という言葉に、近寄り難さは感じても、蔑むような気持ちにはなりにくいと思う。そういうこともあって「クラシック」という音楽ジャンルにとっては、「クラシック」という言葉は命綱だな。

それはそうと、上のダイアリーのエントリで気になるのがこの部分。

クラシック音楽というのは、音楽であると同時に作曲家の思想史の断片なので、単独で「これだけは聴けとけ」というのは難しい。ベートーヴェンの荘厳ミサ曲は交響曲第9番を聴かなければ意味合いが半減してしまうし、R.シュトラウス交響詩や歌曲もオペラを聴かないと本当の姿が見えてこない。

「思想史の断片」とか書くのは初心者にとっては何のことか分からないだろうなと思うが、それは別の問題。「これだけは聴けとけ」でもなくて、その後ろ。ここで例に挙げられているベートーヴェンについては僕も納得できるが、R.シュトラウスに関しては違う見解を持つ。R.シュトラウスの代表的なオペラは、交響詩より後に作曲されている(かつてこんなエントリを書いていた:リヒャルト・シュトラウスの活動と「英雄の生涯」 - think two things)。だから、R.シュトラウスのオペラを聴かないと交響詩の姿が見えないことには、ならないだろうと思う。交響詩を聴かないとオペラの姿が見えないことはあるにしても。もちろんR.シュトラウスという一人の人間による作品群なので、関係性がないわけではないのも確か。一人の作曲家の色々な作品を聴き続ければ、それなりのものは読み取れるようになる。書いていて収拾がつかなくなってきたので、一旦休憩。

ちなみに「交響詩」というのはハンガリー系のピアニスト・作曲家のリストという人が作った音楽の形で、端的に言えば詩的な題名があって、それを描いた音楽というところだろうか。音楽鑑賞の時間に聴かれることの多い「モルダウ」も交響詩だし、吹奏楽に編曲され人気のある「ローマの松」や「ローマの祭」なども交響詩だ。「モルダウ」は川の源流の描写から始まり、落ち着いた流れを経て、河畔に住む人々の狩りや踊り、月夜に照らされて光る川面、激流・・・。何が表現されているかを人に説明することが出来る。絵画で言えば、何が描かれているか判別できる静物画や風景画のようなものだろうか。

翻って、描写する対象がないクラシック音楽もある。「交響曲」とか、「ソナタ」とか。こんな無味乾燥なタイトルから、音楽の中身を想像することなんて出来ないだろう。ドラマ「のだめカンタービレ」のオープニング曲となり知名度が俄然上がったベートーヴェン交響曲第7番」、あの実際の音に接してその魅力にほだされた人は一人や二人ではないだろう。「描写する対象がない」曲にも魅力的なものがあるんだ、ということが伝わるだけでも僕は嬉しかった。

それはさておき、だいたい「交響曲」って何なんだろう。「交響」なんて普段使いみちのない熟語だが、クラシックの中でも一番人気のある形式であるにも関わらず、その字から伝わる要素が少ないってのは、本当に厳しい話。「協奏曲」なら「協力して奏でるのね」と、「室内楽曲」なら「部屋の中でやるのか」と、「四重奏曲」なら「四つが重なって奏でるのか」みたいな感じでイメージが出来る。「交響曲」、「交わって響く」って何とも整理しにくい。「交響曲」はもともとは、オペラの序曲だったものが派生して出来たものらしいが、そんなことを言い出す時点で訳が分からない。思い切って外来語式に「シンフォニー」って言ったほうがいいのかも知れないな。「バラード」とか「ブルース」くらい浸透してくれば。なまじ誰でも読める漢字「交響」というのがいけないのかも知れない。

話を戻して、ベートーヴェンの「交響曲第7番」には描いている具体的な対象は、ない。つまり物や風景、物語のように人に説明できるものを描いているわけではない。じゃあ、何を描いているのかと言えば、ベートーヴェン自身ってことになるのかな。ベートーヴェンの心の動きと言い換えてもいい。つまり具体性がなくて、とても抽象的なのが「交響曲」と名付けられる音楽の大部分。絵画で言えば、そのまま抽象画だろう。いきなりだが「抽象曲」というタイトルは「交響曲」よりも、交響曲的なものをイメージしやすいかも。ベートーヴェン「抽象曲第1番 ハ長調」、こう書かれれば、「そうか、抽象的な曲なんだな」と人はきちんと身構えて聴くことが出来る・・・、いや出来ないか。

さて、「クラシック音楽を何から聴くか」とかタイトルをつけておきながら全然その話にならないが、そろそろ考えながら書いてみたい。描写的な音楽から聴くのはどうだろう。

交響詩

じゃあ「交響詩」から。「交響」は分からなくても、「詩」ならイメージしやすい。聴き手の想像力を喚起してくれるタイトルのついている曲は、クラシックには膨大にある。中でも上に挙げた「モルダウ」や「ローマの祭」はうってつけだと思う。けれど「モルダウ」は音楽の時間に聴かれる程に使い古されているのと、音楽の退屈な授業を連想してしまう恐れがあるので、「ローマの祭」がいいかも知れない。

レスピーギ:交響詩「ローマの松」、「ローマの噴水」、「ローマの祭」

レスピーギ:交響詩「ローマの松」、「ローマの噴水」、「ローマの祭」

「ローマの祭」はローマを舞台にした祭を描いている曲。ローマ帝国時代に迫害されていたキリスト教徒を襲うライオン*1と、キリスト教徒の祈りの歌。ファンファーレ。厳かに執り行われる祭礼の様子。収穫の季節のような晴れやかさと穏やかさ。酔っ払いと手回しオルガンと踊り狂う人々。いやー、僕が好きなだけか。ほかにもムソルグスキーの「禿山の一夜」や、デュカス「魔法使いの弟子」、交響詩ではないけれどドビュッシーの「海」もその手の音楽。描いている情景や、対象を事前に把握しておいてから、どのメロディがどの情景を描いているか、どの響きがどの対象を描いているかを聴き取る。「モルダウ」なら激流の箇所などはすぐ見付けられると思うし、「ローマの祭」のライオンの咆哮や酔っ払いの歌も分かりやすい。「禿山の一夜」で夜明けを告げる鐘の音もそのまま叩かれる。ああ、僕が聴きたくなってきた。

どこかで聴いたことある曲

また別の入っていき方で、「あっ! この曲聴いたことある!」っていう瞬間にはある種の優越感に浸れるので、その手のものを聴きまくるというのは「私、クラシック初心者なんです・・・」という押しの弱さを払拭するには悪くないかも知れない。となると、CMに使われた経過のある作品が良いかもと挙げるのはバッハの「ブランデンブルク協奏曲第5番」の第3楽章。

バッハ:ブランデンブルク協奏曲全集(全曲)

バッハ:ブランデンブルク協奏曲全集(全曲)

ブランデンブルク」と片仮名のタイトルだけで恐れをなす人は居るかもーと思いながら続けると、この曲は何度もアレンジを変えてソフトコンタクトレンズ「レニュー」のCMで使われているので、「あっ! 聴いたことある!」と可能性は低くない。他ではブラームスの「交響曲第1番」の第4楽章。

ブラームス:交響曲第1番

ブラームス:交響曲第1番

この曲はサントリーウイスキー「響」を始めとして何度もCMで使われているし、「のだめ」で有名になった曲でもあるので更に「あっ! 聴いたことある!」体験を得られる可能性はある。ワーグナーの歌劇「タンホイザー」の序曲もいけるかな。

タンホイザー~ワーグナー管弦楽曲集

タンホイザー~ワーグナー管弦楽曲集

これは佐川急便のCMで結構長い間使われていたから。最近は見なくなったが、昔は「CMクラシック」などのタイトルで、CMで使われた曲を集めたオムニバスCDが結構販売されていたので、そういうものを見つけて1枚買うのがおすすめ。かく言う僕もその手のCDを買って何度も聴いた。「フリスキー・モンプチ」のCMでモーツァルトの魅力にはまったのが僕だ。けれど闇雲に買っても「あっ! 聴いたことある!」に当たらない場合のほうが多く、そんな時は不幸な気持ちがするので、まずはこのあたりを買うのが一番いいのかな。

どこかで聴いたクラシック クラシック・ベスト101

どこかで聴いたクラシック クラシック・ベスト101

で、聴いたことがあったものをまた個別に買ってみるということで。

もう一つくらい何かないかな。あ、これだ。

覚えやすいメロディの曲

覚えやすいメロディの曲を選ぶといいかも。クラシック音楽には詞がないので、あっても外国語であることが多い*2ので、ずっと前奏・間奏・伴奏みたいなイメージで捉えられているのかも知れない。けれどそういう詞がない音楽のいいところは、受け取り方が多彩になるということ。「愛している」という詞があれば、それをそのまま受け取るしかないのだけど、「これは愛を描いている」という主題はあっても言葉がなければ、それを受け取る側の感慨は人それぞれ異なるものだし、同じ人の中でも聴く時間や状況によって聞こえ方が変わるのだ。クラシック音楽はどんどん形を変える。話が逸れる。覚えやすいメロディの話だった。そういう点で良いのはやはりラヴェルの「ボレロ」なんだろうな。

ボレロ(ラヴェル管弦楽名曲集)

ボレロ(ラヴェル管弦楽名曲集)

この曲はメロディが2つしか出てこなくて、その2つを覚えることが出来れば、あとはそれを追っていくだけで楽しめる。初めて全部聴くと馬鹿らしいかも知れないが。演奏時間は十数分あるので、その長さのクラシックを聴き通したという充実感も得られるし。そうそう、クラシック音楽は長いから、それで脱落してしまう人は少なくないのだろうな。でも長い長い曲も、短いメロディたちの組み合わせで出来ているので、幾つかのメロディを覚えられたら、後はそれを待っていればいい。前に挙げたブラームス交響曲第1番」の第4楽章の有名なところは、曲が始まってから暫く経ってから出てくるので、それを耐え忍んだ後の美しさもなかなか格別なはず。と、話がずれた。「ボレロ」だった。「ボレロ」の小太鼓のリズムは水戸黄門の主題歌のリズムに似ていて、これも覚えやすい。そしてずっと同じリズムなので、それに耳をすませるのも楽しみ方の一つかも。それにベースの音も「ド・ソ・ソ・ド・ソ・ドド」の繰り返しなので、これに耳をすませ続けるのも一興。ほかで覚えやすいメロディのクラシック・・・、ムソルグスキーの「展覧会の絵」かな。

ここではラヴェルが編曲したオーケストラのほうの話。「展覧会の絵」の中には「プロムナード」というタイトルの曲が数曲あって、その間に色々な曲が挟み込まれているわけだが、この「プロムナード」のメロディは基本的には同じ。けれども、楽器・速さ・キーなどを効果的に変え、組み立て直してあるので、その違いを楽しむようなことも出来る。そのプロムナードを待っている間は耐え忍んでおけばいい。もちろんメロディを覚えられれば素敵な時間になる。「古い城」のサクソフォンの音色は受け入れやすいと思う。最後の2曲「バーバ・ヤーガの小屋」「キエフの大きな門」は切れ目なく演奏されるのだけど、この圧倒的な曲が感動を連れてきてくれる可能性も高いと思う。

と、ここまで書いて思ったけど、「変奏曲」という形式は初心者にいいかも知れない。

変奏曲

「変奏曲」は一番始めのメロディを、速さを変えたり、キーを変えたり、別のメロディと絡ませたり、拍子を変えたりしていく形式(で、合ってる?)。ちょっとひねくれた説明をすると、メロディを変えてどう巧く「隠していくか」という形式かな。なので、一番始めのメロディを覚えれば、そのメロディが変わっていく形を楽しむことが出来ると思う。隠されていくメロディを聴き取ろうとして、見つけるのもいい。クラシックを聴く楽しさって、「メロディを聴き取って見つけていく」ことなのかも知れないと思った。今、思った。「変奏曲」はその練習にもなる。モーツァルトの「キラキラ星変奏曲」もいいし、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」もいいなあ。ブラームスなら「交響曲第4番」の第4楽章もいいかも。あまり長いのがあれなら、ストラヴィンスキー火の鳥」のフィナーレはどうかな。メロディが短くなって、また長くなるだけだけど。

モーツァルト:キラキラ星の主題による変奏曲 K.265

モーツァルト:キラキラ星の主題による変奏曲 K.265

ブラームス:交響曲第4番

ブラームス:交響曲第4番

ストラヴィンスキー:火の鳥

ストラヴィンスキー:火の鳥

あとクラシック聴き始める人は、日本語のジャケットで、値段が安くないものを買うほうがいいかも知れない。いわゆる国内盤。国内盤ならブックレットもそれなりに充実している可能性が高い。ブックレットから得られる情報は馬鹿にならないと思うから、是非。

今度、僕が聴いてきた100曲を考えてみようと思う。最初に関心を持ったのはどの曲か。どの曲を聴いてきたか。好きな曲はどれか、どこが好きか。そういうことを考えながら、また書こう。

*1:違う動物だったかも。

*2:もちろん日本語の詞のついたクラシック音楽もある。