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道化師の朝の歌

このラヴェルの曲を初めては聴いたのは、小学生の時だ。友人の家で聴いた。友人がファイナルファンタジーをやっている横で、マンガを読みながら聴いていた。この曲の主要な主題の一つが、ドラゴンクエストIIの戦闘の音楽に似ていると思った。友人が持っていたのは小澤征爾/ボストン交響楽団の録音だったと思う。

その友人の家は古い二階建ての日本家屋で、穴の開いた襖や障子がたくさんあった。その中の一つ、子供部屋の押し入れの襖は修復不可能なほどにビリビリになっていた。友人が黒髭危機一髪のプラスティックの刀を、面白がって襖に投げた。すると鮮やかに襖に刺さるではないか。友人はどんどん続けた。君もやれよと誘われた。既に友人が刺した刀のせいで襖は酷いことになっていたし、僕は仕方なく数本投げた。そして夕食時になり帰ることになった。

その晩、友人の母親からうちに電話がかかってきた。電話の主旨は、僕が友人の部屋の襖を壊した、というものだった。

僕の親はその電話を切るなり、僕を連れて肉屋に行った。そこでうちでは絶対買わないような上等の牛肉を買った。そのピリピリした雰囲気に僕は何も言えず、親についていくだけだった。友人の家の広い玄関、自転車が何台も停められそうな土間だ、そこで僕の親は友人の母親に牛肉を手渡して、何度も謝った。友人の母親は僕の親に向かって、どんな教育をしているんだ、みたいなことを何度も言った。

僕は友人を信じていた。「僕が誘ったんだ」と言ってくれると信じていた。僕の親の声は家の奥にまで聞こえているはずだ。その声を聞いて玄関まで飛び出してきてくれるのだと思っていた。だって友人の気配がするのだ。友人は息を潜めて、玄関で行われていることに耳をすましているのだ。きっと。だけど友人は出てこなかった。

それまでずっと黙っていた僕は、思わず友人の名を呼んでいた。それを聞いた僕の親は僕の頭を後ろから押さえ付けた。僕は腰を折り曲げて頭を下げるほか無かった。

こんな理不尽なことが起こるのだと、僕は悔しさよりも驚きを感じていた。僕の頭の中には、夕方聴いた「道化師の朝の歌」が終わることなく繰り返されていた。

という思い出が、この曲にはある。